総員、我が名はケンラウヘル。すなわち反王である。
今回は前回の続き。
逃れられぬ運命
この日は毎年恒例のパーティーに出席するだけのはずであった。
年に数回しか着ないスーツを身に纏い、手提げ鞄を持ち、冬だというのに妙に暑苦しく感じるネクタイを締めて。
この日は土曜日、要塞戦もあるのだが、毎年この日だけは出れず、要塞戦の編成は大丈夫だろうか、皆うまく調整しているだろうかと思っていた。
一流ホテルの駐車場という、まさかの場所でのエンカウント。
目の前には跪く大の大人2名。
そして事情が飲み込めぬ我が息子。
跪く二人の脇を抱えて強制的に立たせる。
ツクヨミ「ここで何してるんですか!?」
ケンラウヘル「いやそれはこっちが聞きたい、本当に」
ryster「どうしたんですか反王様!何されてるんですか反王様!」
ケンラウヘル「その名前だけイントネーション強めに言うな言うな」
キョトンとしている息子、いや、キョトンではない。
若干恐怖に怯えている息子を尻目に二人に耳打ちする。
ケンラウヘル「今日はここでパーティーがあってだな。むしろ二人は何故こんなところに」
ツクヨミ「買い物ですよ、買い物」
ツクヨミが無邪気な笑顔で手に持っている紙袋を我に見せてくる。
紙袋にはどこぞのブランド品と思われるロゴがあしらってあり、まず一目で高級だということが分かる。
しかし、そんな事は気にする余地もなかった。
とにかくこの場をうまくやり過ごさなければならない。
ryster「まさかここで反王様と、そして王子に会うとは思いもy
ケンラウヘル「よぉし、リスタ、よーーしよぉしよぉし!!」
反王という言葉を発するだけでちょっとツボっているrysterの胸ぐらを掴んで静止しつつ、ボリューム大きめの謎な掛け声で音を搔き消す。
駐車場に我が声のエコーが響き渡る。
チラと後ろを見ると、ぽかんとした様子で我らを見ている息子。
ここはしっかりと弁解しなければ。
ケンラウヘル「この人たちは友達さ」
間違ってはいない。
”何の友達か”という事を言っていないだけだ。
とりあえず息子の警戒心は解かねばならぬ。
ツクヨミ「こんにちは!お名前は何ていうの?」
さすがツクヨミ、大人力が違う。
息子の前で屈み、息子と同じ目線で話す。
息子が自己紹介をする。
「何歳かな?」「パパとはお友達なんだ」「照れないでいいよー」「◯◯くんは今日は何しに行くの?」と、巧みな子供への気遣いとコントロールで息子の警戒心が解かれていく。
凄いなと感心した。
ツクヨミとは何度も会っているが、本当に大人力というか切り替えが凄い。
息子の言葉ひとつひとつに優しい相槌を打ちながら話す様は、本当に子供が好きなんだなととても好感が持てる。
ツクヨミ「今ねー、僕たちはこの人と買い物しに来たんだよー、ほら、rysterさん、挨拶しないと」
このしっかりとした振り、流石の大人力である。
と油断したのも束の間。
ryster「僕は反王様の下僕です」
息子「…ゲボク?」
ケンラウヘル「ヨォしリスターヨォしよしよしよし!!!!!」
精一杯笑顔を作りながら血管浮き出る拳で胸ぐらを掴んで静止。
再び駐車場に我の発声が木霊する。
まさか2018年末に反王という言葉をカットし続けるとは思わなんだ。
事態の悪化
その後は軽く世間話をしながら、年末や来年について話した。
次どこかで食事しようとか、我に会いたい人がいるからぜひ食事のスケジュールをとか。
ちょっと立て込んだ話になり、我はツクヨミと二人で話すことになった。
ツクヨミ「rysterさん、ちょっとだけ坊ちゃんのお相手をしてて」
ryster「了解です」
と、息子をrysterに委ねるツクヨミ。
我の頭の中では何故か
このシーンが浮かんだが。
絶対に変なことを吹き込まぬようにとrysterに念を押す我。
不敵な笑みを返すryster。
とにかく早く終わらせるしか助かる道はないようだと悟った瞬間であった。
ツクヨミとの話は大体3分か5分くらいか。
話を終えてすぐさまにピッコロ大魔王から悟飯を奪い返す。
とはいえ、意外と息子もrysterとの会話を普通に楽しんでいた様子だった。
だが誤算としては、rysterからの息子への吹き込みではなく、息子から我の情報を引き出していたようで、「反王様って実はこうなんですね…!」と、再び不敵な笑みを返すryster。
本来であればここでツッコミを入れるべきだった。
だがしかし、我はそんなものよりも焦っていた事があった。
確率的には低いにしろ、これはそろそろまずい。
我のゴーストがそう囁いていた。
ケンラウヘル「では、我はこれにて失礼、良いお年を」
ryster「そういえば反王様、来年の1月に・・・」
話を無理やり終わらせようと思った最中、突如話を振られる我。
この際、反王様という単語についてはツッコミを入れる程余裕はなかった。
両名には悪いが、とにかく話を打ち切らねばならない、そう直感していた。
これがいわゆるフラグというものなのだろう。
それは世間話をはじめて数分もしないうちだった。
「もうついてたのか」
「知り合い?」
聞き慣れた声が後方からする。
予想しうる最悪の事態が我を襲った。
そう、その場に突如現れたのは、
我のリアル父と母であった。
続く。