総員、我が名はケンラウヘル。すなわち反王である。
現在、アステルサーバーでの反王親衛隊が始まってから2週間弱といったところか。
とりあえず我が軍では20名程度のメンバーが集まっている。
最近は色々と仕事が多忙でギルドメンバーと話す機会が取れなかったのだが、これではギルドとしては成り立たぬ。
ある日、我が軍のディスコードにて我が部隊のメンバーたちとダンジョンをこなしながら話していたのだが、それを聞きつけたメンバーたちがこぞってディスコードに集結した。
こういう機会を取り逃したら、如何せん人はギルドから抜けていってしまう。
現に「入れさせてください!」と入ってきたメンバー数名も、何も喋らぬまま脱退することも多々あるというものだ。
ということで、緊急ではあったが、その場にいたメンバーを招集し、急遽第一回反王親衛隊会議を行うこととした。
議題はエンブレムについてだ。
■エンブレムの意味
エンブレム、それすなわちギルドの顔である。
ギルドの顔をしっかり考慮した上で作る必要がある。
ただ単にカッコいいからという理由で我はエンブレムを作らない。
作る時は必ず意味を付ける。
これが何のためになるのかという疑問は生まれるかもしれぬが、こういう一見意味のないように見えることを考えることこそがMMOの神髄だと考える。
世間では戦闘力、課金力、どの武器や防具を手に入れたという話で持ち切りの状態。
戦闘力だけでマウントを取って悦に浸るのも文句はないが、それだけではMMOを存分に楽しんでいるとは到底言えぬ。
エンブレムを付けることができるゲームというのは非常に多いが、中には決められたパターンの中から選ぶだけというものもある。
それだけでもまぁ悪くはないが、このエターナルはエンブレムについては「中央」と「バック」の2種類、細かく言えばバックも2色で作りこむことが可能だ。
中央のモニュメント、そして背景における形、それぞれのカラーでエンブレム、すなわちギルドの顔が決まる。
軽んじている者もいるかもしれぬが、我にとってはキャラメイクと同じだ。
いや、むしろキャラメイクよりも重要かもしれない。
キャラというのはどうしても似たり寄ったりするものだが、これについては確実に違うカラーを出さねばならぬ。
まぁ一つだけ難点を言うのであれば、
1回変更するのにアークロアガチャ10回分を消費することだろうか。
解せぬ。
だが逆に言えばホイホイと変えられない、つまりは慎重にエンブレムを作る必要があるということだ。
こういうのは大抵、どんなエンブレムがいいか、というのはさっとギルドマスターが決めるべきではあるが、今回はコミュニケーションがてら、色々と聞いてみることにした。
だが。
皆やはり意見というよりも、出来上がったものに対して意見した方が良いという人が多いようだ。
我としてはやはりPKのあるゲーム。
決して聖人君主ではなく、戦う時は戦う武装集団。
ただ無差別とか煽りとか、そんなつまらぬ戦いではなく、正々堂々、騎士道精神に則った戦いがしたい。
そういう土台が心にあれば全く躊躇なく作れるというものだ。
我の目にぱっと留まったのはこの紋章。
ちょっとミステリアスな感じで、明らかに正義のヒーローが掲げるエンブレムではないことがわかる。
わかりやすく言えば、ガンダムで言う所の
ジオン軍に近い何かを感じる。
ちなみにちょっとマニアックに言えば、
ヘルシングのゾンビ部隊が装備していた盾のエンブレムにも酷似しているといえよう。
たしかにギルドメンバーの言うように、
ゼーレっぽい感じでもある。
とにかく中央のモニュメントは決まった。
そしてバックについてだが、これも試行錯誤し、あれやこれやと30分ほど論議をした結果、
これにすることにした。
そうしてカラーリングについて意味を考えつつ、更に30分かけて論議して決まったエンブレムというのが
このエンブレムである。
真ん中のモニュメントは血を意味する赤。
血と共に歩むことこそMMOの楽しさの一つ。
そして闇を纏う背景の中央に差し込む一筋の光。
かつてリネレボ時代に掲げていた「血」と「光」を体現したような、そんなエンブレムの完成である。
我はしっかりとそのことをギルドメンバーに伝えた。
やはり意味を考えるのは楽しい。
血と闇と光。
これが我が部隊のコンセプトとなった。
そしてこういうのはしっかりとギルドメンバーに認識してもらう必要がある。
我の説明がちゃんと届いているのか、再度意味の復唱を求める。
血と闇と光。
しっかりと説明したはずだったのだが。
いつの間に少年ジャンプの連載漫画みたいなコンセプトとして伝わっていた。
後日、彼には粛清を行うこととす。
■エンブレムの印象
そしてエンブレムのもう一つの楽しみ方は、遠目から見た時の印象だ。
大きくアップされた画像とは印象が大きく異なるというのも、MMOをプレイしていればよく知っていること。
アップだとこの細かいモニュメントがはっきり見えるが、遠目から小さく見えるとどんな風に見えるのか。
それはまるで薔薇のように見える。
薔薇というのはしばしばファンシーな印象を与える。
明らかに方向性が違う印象を与える可能性もある、まさに諸刃の刃。
だが、このバックが黒であることから不穏なイメージを与える。
まさにベルセルクの髑髏の騎士が持つ紋章のような、薔薇の花びらよりも茨や死を連想させる、そういった紋章となった。
こういう錯覚のような遊び方もできる。
まさにこれがいい例だ。
是非他のギルドマスターもやってもらえると幸いだ。
こうしてエンブレムを掲げると、ようやくギルドらしくなってきたというべきか。
いつの日か赤薔薇の盾騎士と、アステル、いや、全サーバーで呼ばれる日を夢見て、行動することとする。
■今日の錯覚
エンブレムが薔薇っぽく見えることでテンションの上がる面々。
なかなかこんないい感じの錯覚はないと思われた。
その後、何気なくランダムダンジョンに入り、一緒にプレイしていた野良の者に、とあるギルドに入っていたメンバーがいた。
どこのサーバーかは覚えていない。
だがギルドの名前だけは憶えている。
ギルド名【突撃!隣の晩御飯】
かの有名な、あの番組から名前を取ったギルドだ。
ダンジョンでは我が軍のKURO、Minette、けじーじというメンバーで入っていたのだが、話題はそのギルド名について盛り上がった。
何故その名前なのか。
ギルドマスターはよねすけなのか。
そもそも何が目的のギルドなのか。
相手のギルドには失礼に値するかもしれぬが、決して馬鹿にしているわけではない。
こういうセンスが素晴らしいのだ。
キャラ名にしても、何にしても、こうやって楽しむことこそがいいのだ。
だがしかし、ある事実にMinetteが気付いてしまう。
Minette「反王様…私、とんでもないことに気付いてしまったのです…」
ケンラウヘル「どうした」
Minette「彼のエンブレムを見てください…」
ふと目を突撃!隣の晩御飯ギルドのエンブレムに合わせる。
その瞬間、錯覚に見舞われた。
そして我は敗北を覚えた。
あまりの敗北感に、SSを撮るのを忘れてしまったぐらいに。
ケンラウヘル「そんな…馬鹿な…」
Minette「こんなことが…」
けじーじ「あのエンブレムは…」
KURO「まさか…」
全員「茶碗によそったご飯……」
ギルド名とエンブレムがここまでマッチするものなのか。
錯覚、恐るべし。
以上。