総員、我が名はケンラウヘル。すなわち反王である。
日曜日の23時、我が軍はJOKER血盟との模擬戦に挑むこととなった。
ちなみに我が軍は要塞は確保こそしているが、模擬戦は全戦全敗という苦い過去を持つ。
血盟内部では模擬をすることを敬遠する風潮があった。
しかも相手はJOKER血盟、50万クラスのブレダンもいる。
思わず「効果はばつぐんだ!」と言いたくなる。
我が軍には戦闘力が50万を超える者はいない。
今までの模擬戦はアジトでやっていたが、今回は広い街中でやることにした。
戦闘の舞台はグルーディン村のポータル付近だ。
地図だとわかりにくいが、中央にリスポンポイント、それを挟んで東西に分かれるというもの。
我が軍は相手血盟より人数が少し上であったが、戦闘力を考慮してそのままやってもらうことにした。
基本的には戦闘力の勝負ではなく、連携の練習であると捉えている。
今回のルールは高級ポーション、ソウルショット、血盟強化効果、晩餐はなし。
結果的に10分間の戦闘によるキルデス勝負(2試合目は15分か?)の2試合分を行うこととなった。
新しく入ったメンバーが多く、まだ対人をまともに体験した事もない者が数多くいた中での模擬。
緊張が我が軍に走る。
しっかりと情報共有をした後、布告後に即戦闘が開始された。
アジトでは何度も模擬をしたが、今回は街中である。
地形と特性を把握し、素早い状況判断が求められる。
今回の地形は簡単に言うと以下のような図にまとめられる。
反王親衛隊は東、JOKERは西側に布陣し、その中央当たりで当たり合うといったものだ。
しかし面倒なのはリスポン地点である。
リスポン地点が我が軍から見て北にある以上、下手に押しすぎると横っ腹を殴られることとなる。
リスポン地点より先には攻めぬよう全軍に指示し、ファーストコンタクトが始まる。
戦闘力20万代が我が軍には多数存在している。
そのため、バラけたら即各個撃破となる。
まとまって動くこと、「個」ではなく「集」で戦うことを日頃から意識している。
我は陣形のひとつひとつに名前を付けている。
まずは防衛の型第一陣【水魅の陣】だ。
要塞戦用に作り上げたこの陣。
我は前線ではあるが一歩引き、火力のある者が前に出る。
水のようにまとまり、シリエンナイトのヒドラで相手を飲み込み、そこに待つのは気絶や転倒、後ろから流れるように火力を集中させて相手を確実に撃破していく。
小さき力でも集まって大きな力となる。
そう、これこそまさに
【水魅の陣】(すいみーのじん)である。
ファーストコンタクトはフル回転で一気に敵前衛を崩し、相手の中心および後衛を飲み込みにかかる。
しかしただ攻めるだけでは意味がないのだ。
相手の動き・戦術・考えていることも読まなくてはならない。
ファーストコンタクトで一番気になったのは相手のウォーロードが熊に乗ったまま前線に特攻をしかけてきたことだ。
前線に「攻撃が当たるように」ではなく、その名の如く「我が軍の前線をかき分けて中に入って」きたのだ。
今回は要塞戦ではない故、騎乗は別に違反ではない。
が、あまりにも迷いなく突っ込んできた。
しかし、我が軍がうまく捕獲、相手にスキルを振らせることなく蒸発させる。
狙いとしてはリスクを負いながらもウォーロードのサンダーストームで我が軍の前線を気絶させようとしたのだろう。
しかし、この模擬での「特攻玉砕」には我は異議を唱える。
なぜなら我が軍は模擬戦全戦全敗の軍であるからだ。
過去の模擬戦は全てキルデス勝負だった。
我が軍は10分間で300キルされて負けたこともある。
自分自身は10キルもされなかったのに、なぜ悪いのか。
動画を見て上部のキルログをカウントすると、驚愕の事実が発覚した。
実に300キルの内、100デッド以上している者がいたのだ。
過去の模擬はアジトだった故、小さい場所でリスポン復帰も早い。
が、これが我が軍全敗の原因につながっていたのだ。
負けたことは大いなる財産だ。
この勝負もキルデス勝負、故に指示したことは「死なないこと」だ。
当たり前かもしれないが、「私が死んでもいいから相手を集団で気絶させたら皆がやってくれるはず!少しでも役に立たなくちゃ!」は逆に足を引っ張るのだ。
故に、皆には命を最優先に動くことを指示している。
前衛だが戦闘力の低い者もいる。
だからといって前線に出さないで指を咥えて後ろから見ろ、というのはナンセンスだ。
ヒットアンドアウェイでいい、とにかくHPを常時確認し、危険を察知したら、例え相手が瀕死だろうと下がって回復する、これでいい。
しかし前線維持は必須だ、前を開けてはならない。
HPが残り少なくなったものは生き残ることを優先し後ろへ、その空いたスペースを後ろから臆することなくどんどん詰めて火力に参加する。
これこそ我が軍の作戦、攻撃と回復を兼ねた長期型戦闘、攻撃の型第一陣【ガンズ・オブ・オーダー】である。
これの導入によりデッドする回数は格段に減る。
前が削られたら後ろに戻り回復、そして前が削られたら後ろから前に詰める。
本来であればパラディンである我が常に盾となり前線をキープする、それが望ましいが、それは命あってこその話。
我はまだまだ弱い。
故に我も削られたら容赦なく後ろに引く。
後衛→中心→前線→後衛を繰り返すことで弱い者を守りつつ前線を維持する。
そう、これこそまさに
【ガンズ・オブ・オーダー】(長篠の戦い)である。
序盤からの衝突は優勢を保つものの、徐々にほころびを見せる。
西の敵陣からの主戦力と北リスポン地点からの奇襲の繰り返しで陣形が崩れていく。
これでは戦闘力で負けている我が軍は小魚の如く各個撃破されてしまう。
徐々に相手のキル数が目立ち始めてくる。
陣形を立て直すため、総員撤退を指示。
自軍付近のT字路に集合するよう素早く伝達。
チャットで焦ってT字路をT次郎と打ってしまったのは秘密である。
攪乱させられると負けるが、バラバラにならぬ限り勝機はある。
相手は【水魅の陣】を破るため、各方向から戦わずして我が軍を釣り、各個撃破を狙うだろう。
しかし、いくらリスポン地点を意識したからといって待っているだけでは意味がない。
ここでの我の考えは2点。
・攻めてくる方向が絞られれば団結してより確実に撃破可能。
・明らかに釣り行動の者は放置し、逆に手薄になった敵本丸を飲み込む。
後者はいいとして、前者についてはやったことがなかったが、咄嗟の判断で壁を使うことにした。
壁にぴったりとくっつくことで4方向の内1方向を完全に無視することができる。
相手の囮には目もくれず、本丸を叩きにいく。
本丸が減ればリスポン地点側の敵が増加、本丸の人数が少なくなったのを見計らって北側の敵を喰らいにいく。
効果はなかなかだった。
各個撃破を繰り返した後、我が軍がキル数を上回り、1戦目をとったのである。
そしてもう1戦やることに。
待っている間は血盟チャットが盛んだった。
やっと勝てた、ようやく模擬戦のトラウマを克服したぞ、次はもっと上手くやろう。
そんな内容で埋め尽くされる。
これだ。
このポジティブなスパイラルが最高のアドレナリンを出し、見えない力で物事がいい方向に運ばれていくのだ。
2戦目はより各個撃破をされぬよう細心の注意を払って動く。
より集まり、釣られず、相手を確実に飲み込む。
2試合目は我が軍最高の出来といってもいいくらい動くことができた。
2試合目も勝利した。
そして
我が軍初の白星をあげることができたのである。
要塞戦の実装予告から今まで狩り専門だった者も徐々に対人を意識し始めてきた。
この1歩はその勢いを加速させることだろう。
しかし、この1歩は驕り高ぶれば破滅への1歩にもなる。
我が軍は兜を脱ぐ事は許さぬ。
より高みへ、そして着実に地に足を着けて進むのだ。
今回は人数差もあったが、それを快く了承し、そしてこの模擬を企画してくれたJOKER血盟の血盟主必殺前歯、副血盟主純潔のマリア、そして血盟員各位に心よりの感謝と敬意を、この場を借りて述べる。
また殺したり殺されたりしよう。
また次回模擬をすることを約束し、今日は終了したのだった。
■今日のロゴ制作
我が軍には「ぽーらすたー」という、戦闘力こそ低いものの、血盟内のムードメーカー兼お世話係がいる。
何気ない血盟の雑談の中で、「反王親衛隊ステッカーを作りたいね」という話になり、「まずは反王親衛隊ロゴを作らなくては」という話に発展した。
こういう時に何でもできるぽーらは張り切るのだ。
ぽーらすたー:盟主、どんなロゴがいいの?
ケンラウヘル:いきなり言われても難しいが…何かロゴでいい例はないか?
シゲルマツザキ:ロゴっていうと、あれか。
シゲルマツザキ:東映マークみたいなやつでいいんでないかい?
ケンラウヘル:ふむ、シンプルでいいな。
ぽーらすたー:了解!
ケンラウヘル:あれだな、映画の最初に出てくる波が激しく打ち寄せられてきて、その波から画面手前に向けてバンと出るようなのがいいな。動きがあっていい。
ケンラウヘル:こういうやつだな。
ぽーらすたー:任せておいて!2分ROM
手先が器用な者は本当に羨ましい。
そしてロゴ…いいではないか、我もこういう楽しいは大好きだ。
どんな風に仕上がるのか楽しみである。
ぽーらすたー:お待たせー
掲示板に画像が貼られる。
そして我は驚愕した。
いや、確かに東映っぽいロゴになっている。
海もバックにある。
あるにはあるのだが、
波が穏やか。
むしろ引き潮でこのロゴが沖へ流されそう。
違うのだぽーら、こう東映のマークは「どどーん」と打ちあがらなくてはいけないのだ。
もっとこう、画面にインパクトが欲しい、もっとこう波で打ちあがるようではいけないのだ。
我のイメージを必死に伝え了承するぽーら。
そして3分後に掲示板に貼られた画像がこれだ。
波が凄い。
そして何だこの、ビッグウェーブに乗り切れていない感。
我はこの時悟ったのだ。
こいつ、本気で作る気ないなと。
我は残念であったが血盟員は盛り上がり続けている。
我はそっと寝る前にオート狩りを設定し、その日は寝床についた。
次の日、「反王親衛隊ロゴ」のスレッド掲示板の最後にはこんなものが載っていた。
『反王親衛隊ロゴの持ち方は、こう。』
我は無言でスレッドを削除したのだった。
以上。